おとなの味

友達からプレゼントされたチョコレートが身震いするほど美味しい。

なんでも京都にある専門店のチョコレートということで、カカオバターや植物油脂を加えず上質なカカオ豆と生クリームと少しの砂糖だけで作られたガナッシュは、口のなかでとろけると奇跡みたいに力強いカカオのアロマが広がって、しばし恍惚となる。

さて、食育というと大げさであるが、息子には幼いうちから「本物の味」を知って欲しいと思っている。
出汁は昆布やかつおや煮干しでとるし、味噌は昔ながらの杉樽仕込みで長時間熟成されたものを選び、醤油も無添加の本醸造である。

だが! しかし! このチョコレートはだめだ。
二歳のうちから、こんなに美味しい本物のチョコレートの味を知ってしまってはいけない。

チョコレートは四粒入りだったのだが、これがまた素敵な木製の箱に入っていて、息子は興味津々であった。

「それ、なあに? なあに?」
「これ? 苦いやつ」
ビターテイストのチョコレートだから、嘘は言っていない。

「にがい? おくちゅり?」
「うん、そうだね。お薬みたいなの」
昔はカカオは薬効のある飲み物とされていたので、嘘は言っていない。

「おとな? おとなの?」
「そうそう、大人しか食べられないよ」
こんな高級チョコレート、大人だって滅多に口には入らないよ!

うちではふだんから「これは大人だけ」という食べ物(キムチや大根おろしなど)が食卓に並ぶので、息子は今回もすんなり納得したようだった。

こんなふうに「子どもにはまだ早い」というものがあると「大人への憧れ」や「早く大きくなりたい」という気持ちにつながるのではないだろうか。
というようなことを考えながら、美味しいチョコレートを独り占めしたのであった。