保育園の赤ちゃん

「ととくん? これ、ととくん?」

赤ちゃんの写真や、ちいさな子供がお母さんに抱っこされている絵などを目にすると、息子は決まってそうたずねた。
自分が赤ちゃんだった頃の写真を見るのが好きで、赤ちゃんといえば、自分のことだと思っていたのだ。

ところが、最近は、少しちがってきた。

「ヒナちゃん!」

チラシに写っていた赤ちゃんを見て、息子はそう言ったのだ。

ヒナちゃんとは、保育園にいる生後三ヶ月の女の子である。

息子のお迎えに行ったとき、赤ちゃんの部屋のまえに、ほかのクラスの子供たちが集まっているのを見かけた。

「あかちゃん、みていい?」
「おどろいちゃうから、ひとりずつ、しずかにね」

先生に招かれ、子供たちはそっーと、赤ちゃんに近づいていく。
そして、息をひそめて、そのちいさな指、ぷにぷにのほっぺ、よだれだらけの口をじっと見つめる。

そんなふうに、息子も赤ちゃんを間近で見せてもらったのだろう。

「ヒナちゃん、しゃべんない」
「ヒナちゃん、ねんねしてた」

はにかみながら、保育園にいる赤ちゃんのことを教えてくれる。

自分に妹や弟が生まれた場合には、赤ちゃんのせいで母親がかまってくれる時間は減るし、ジェラシーを感じたりして、すなおに可愛がることはむずかしく、愛憎入り交じってしまうものかもしれない。
けれども、保育園にいる赤ちゃんに対しては、愛情の取り合いをする必要がない。自分にはちゃんとほかに担任の先生がいるし、うちに帰れば母親を独り占めすることができる。
なので、子供たちは赤ちゃんが大好きで、ヒナちゃんは保育園のアイドルだ。

私が本を読んでいる横で、息子はペットボトルやコップを持って遊んでいる。
そのようすを見ていると、こんなことをつぶやいていた。

「みるく、つくってる。まぜまぜ~」
「まっててねー。もうすぐ、できるよー」

ひとりっこの息子にとって、保育園で異年齢の子供に囲まれて育つのは、情操教育という面でも、とてもよい経験になっていると思う。

そんな息子の最近の口癖は、こうである。

「あかちゃんじゃないよ、おっきいちゃん!」