おもち、たくさん、いやだ~

ある日。
おやつに豆大福を食べていたところ、息子が言った。

「まえ、おもちのごほん、だでぃさんに、よんでもらった」

うん? おもちの絵本?

「おもちが出てくるような絵本、家にあったっけ?」

私が首をひねると、息子は言葉をつづける。

「おもち、たくさん、いやだ~のごほん、おうちに、あるで」

うーん、そんな本があっただろうか……。
桃太郎のきびだんご?
でも、たくさん、いやだ~って、どういう……。
と、しばらく、考えて、はたと思いつく。

「ああ、まんじゅうこわい、か」

すると、息子の顔に「ソレダ!」という満足げな笑みが広がる。

「ととくんね、はみがき、こわい!」

いや、あの話の文脈からすると、それって、はみがきをいっぱいされることになるのだが。

お菓子の家

日本の昔話は絵本があるのだが、世界の昔話は持っていないので、グリム童話やイソップ物語などは、私がうろ覚えの知識で、息子に語って聞かせている。

ある晩のこと、寝る前に『ヘンデルとグレーテル』のお話をすることになった。

「そこには、お菓子の家があったのです。なんと、お菓子の家は、お菓子で、できていました。まあ、なんて、おいしそう!」

そんなふうに語っていたところ、横からダンナが口を出す。

「そんなんじゃ、お菓子の家がどんなのか、全然わからないよ。あなた、仮にも作家でしょう? もっとディテールは?」

ぬう、余計なことを……。
そこまで言うならば、受けて立とうじゃないか!

「お菓子の家は、屋根がふわふわのスポンジで、真っ白なクリームがたっぷりかかっていて、壁はレンガではなく、チョコレートで作られていました。そして、窓を割ってみると、それはバリパリとした透明な甘い飴で……ええっと、それから……ととくんは、どんなお菓子が好き?」

お菓子のバリエーションに困り、息子に助けを求める。
すると、息子は目を輝かせて、答えた。

「せんべい!」

よりによって、せいんべいかよ!
渋いな……。

「そして、お菓子の家のおふとんは、せんべいで、できていたのです」

『まんが日本昔ばなし』

最近、息子が読んで欲しがる絵本のうちでヘビーローテーションなのが『まんが日本昔ばなし』(講談社)である。

そう、かつてアニメとして放送されていた作品を絵本にしたものである。
私も幼少期にこのアニメが好きだったので、でんでん太鼓を持った男の子が龍に乗って飛んでくるオープニングや、エンディングの「にんげんっていいな」という曲に、めちゃくちゃ懐かしさを感じる。この絵本には、オープニング曲やエンディング曲だけでなく、声をあてていた市原悦子氏と常田富士男氏の語りが収録されたCDもセットになっている。

これを出産祝いでいただいたとき、私はこう思った。

よし、このCDをかけておけば、読み聞かせをしなくてすむぞ、と。

あにはからんや、息子はまったくCDから聞こえてくる声に興味を持たず、ひたすら、私に「読んでくれ」とねだるのである。

私が読むより、CDの語りのほうが何倍も上手なのに……。
方言風の独特の語り口にはとても雰囲気があるし、おじいさん役もおばさん役もうさぎ役もたぬき役も、ひとりですべて演じて、自在に声を使い分けているのだからすごい。
しかし、子供というものは、どんなに達者な読み聞かせよりも、つたなくてもいいから、信頼できる身近なひとの生の声を求めるものらしい。

いまのところ、息子のお気に入りベスト3は以下である。
『つるのおんがえし』
『ねずみのすもう』
『かさじぞう』

そして、今日もまた、息子は言う。

「ごほん、よんで」
「いいよー。ひとつだけ読んだら、寝ようね。どれにする?」

すると、しばらく考えたあと、息子は答えた。

「むかーしむかしのごほん」

いや、ここにある話、ぜんぶ、そのイントロではじまるから。

「つるのおんがえし」の別名

いま、息子のなかで熱いのは「つるのおんがえし」である。

「ももたろう」や「さるかに合戦」も読んであげるのだが、断然「つるのおんがえし」がお気に入りのようだ。前ふたつは意外とストーリーが複雑だし、キャラクターも多くて、二歳児にはまだ把握しきれないのかもしれない。

で、絵本を読んできて、息子は言う。

「はね、よんで」

たしかに、つるが自分の羽根をひとつひとつ反物に織り込んでいたという、あのシーンはショッキングだ。きみのボキャブラリーに「つる」はないけれど「はね」はあるもんね。

という感じで、通称「はね」だった「つるのおんがえし」であるが、また呼び名が変わった。

にこにこしながら、絵本を持って、息子は言う。

「みちゃった! よんで」

うん、見ちゃうもんね。
思いきり、ネタバレのタイトルだ……。

絵本、大好き

子供を本好きにする方法として、よく言われるのは「まず親が本を読むこと」である。

トトくんの場合

・親がつねに本を読んでいる姿を見ている。
・まわりに本がたくさんある。
・テレビやゲームなどの刺激的な娯楽が家にない。

これで読書の習慣がつかないわけがないと思うのだが。
いまのところ、息子は絵本が大好きで、すきあらば「読んで」とねだりにくる。

しかし、自分自身の子供時代はどうであったかと振り返ってみると、

・親が本を読んでいる姿など見たことがない。
・家には、ろくな本がなかった。
・つねにテレビがつけっぱなしで、親のほうが子供よりも長時間TVゲームをしていた。

という状況だった。

にも関わらず、なぜか、自分は読書の魅力にはまり、ひまさえあれば本を読んでいるような子供になったので、家庭の環境だけが要因ではないだろう。

現在、少しだけ懸念しているのは、母である私があまりにも本が好きで、本に意識を向けているせいで、息子はかえって本を憎むようになってしまわないだろうか……ということである。
「いつもいつも、本、本、本ばっかり読んで! かあちゃんは、ぼくよりも本が大事なんだ!」とか思われないようにしないと。