育てにくい子?

保育園の夏祭りに息子を連れて行ってもらったときの話をしていて、ダンナがぼそりと言う。

「うちの息子は、どうも、やっぱり、扱いにくい子のようだね」

息子はすでに寝ていて、夫婦ふたりでの会話である。

「え? なんで、そう思ったの?」
「いや、保育園の先生の反応とか見て。うわ、問題児が来た……みたいな感じで」

あー、それはわかるかも。
そういう目で、自分も大人から見られていたなあ……と幼き日をほろ苦く思い出す。
親や教育者にとって、手がかかり、管理しづらくて、厄介な子供……。
いわゆる「いい子」とは対極にある存在だった。

日記などの文章は、私の視点で、息子を描いているので、親ばか全開モードというか、「あら、可愛らしいお坊ちゃんね」と思われる向きもあるかと思うが、客観的に見ると、彼は育てにくい部類に入るのではないかという気がする。

・好奇心が旺盛
(また、余計なことをする! いたずらはやめなさい!)

・自己主張が激しい
(もうっ、わがままばっかり! 言うこと聞きなさい!)

・口が達者
(ほんと、生意気で、むかつく! うるさい!)

そして、こだわりが強く、協調性に欠ける……。
夏祭りで撮った写真を見せられ、おなじクラスのお友達が「やさい音頭」を踊るなか、ひとり、ででーんと座っている息子のすがたに、苦笑するしかなかった。

息子にとって幸いだったのは、私自身がかつて「扱いにくい子」だったことだろう。
もし、私が子供時代に「いい子」だったら、息子に対して「どうして、ちゃんとできないの!」とイライラしてしまったかもしれない。

私はいまだかつて「ちゃんとできた」ことなんてなく、それでも、それなりになんとか生きてこれているので、まあ、息子もこの調子でもなんとかなるだろうと、彼の奔放さを面白がっている節がある。

小松左京ナイト

ダンナと息子は保育園の夏祭りに行き、私はひとり、大阪市立科学館で行われる小松左京ナイトへと向かう。

いまは児童文学を主に書く作家になっているが、実は、大学時代に所属していたサークルは「SF研究会」だったりする。
まあ、私がいた頃には、SF小説を読むというより、映像系のひとが多く、先輩方はゲーダイガーなる戦隊ヒーローをやっていたりする楽しいサークルだったのだが。

小松左京作品には特に思い入れが深いわけではないのだけれども(多才な作家だとは思うが、巨星ゆえに「私の愛する作家」という感じではない)、この年代の作家ならではの生き様には惹かれるものがあり、氏の事務所があったホテルプラザの近くに住んでいたことがあったり、いまは氏の自宅があった箕面在住だったりと、勝手に親近感を抱いて、一周年の追悼イベントに参加してきた。

今回のイベントは、プラネタリウム・ホールが会場になっていて、宇宙SFなイメージにぴったりだった。
ゲストの堀晃氏(SF作家)、福江純氏(天文学者)らの案内で、小松作品に描かれた宇宙が紹介されるのだが、ただの講演会ではなく、ゆったりとしたソファーに背中をあずけ、ドームを見あげると、氏の作品タイトルが天から降ってきたり、『結晶星団』に出てくる恒星の動きが再現されたり、『虚無回廊』の謎めいた巨大な茶筒みたいな天体の見え方を検証してみたりと、プラネタリウムならではの演出が面白い。

そして、リメイク版の『日本沈没』を撮った樋口真嗣監督の手による「小松ロケットが宇宙に飛び立ち星になる追悼映像」が上映されて、小松氏の作中の言葉が朗読されると、ああ、そうだ、これは追悼イベントだったんだ……と思い出して、切なくなる。

しかし、映像が終わると、会場は拍手に包まれ、イベントのチケットは予約分だけで売り切れたらしいことも思い出して(入り口で、創作講座の生徒さんと会って「せっかく来たのに完売してたんですよ」としょんぼり話していた)、作家の死後もこれだけのファンが集まるというのは凄いなあと、あたたかな気持ちがこみあがってくる。

帰り道、人波のなかに「眉村先生を囲む会」でお世話になっている大熊さんのすがたを見つけて、声をかける。
眉村卓先生は、私の大学時代の恩師であり、縁あって、もう何十年も続いている囲む会に、参加させてもらうようになった。

プラネタリウムを出て、星のない梅田の夜空を見あげながら、大熊さんと「平行世界」について話す。
グレッグ・イーガンの『ディアスポラ』と、眉村先生の描く「パラレルにいる自分に対する影響」の解釈のちがいとか。

家に帰り着き、まだ眠っていなかった息子から、夏祭りの話を聞く。
なんだか、とても、遠い場所に行って、帰ってきたような気分になった。

カジヒデキのライブ

作家友達の風野潮さんと、心斎橋JANUSへカジヒデキのライブに行ってきた。
なにげに、若い頃、小沢健二とか、ピチカートヴァイブとか、渋谷系が好きだったのである。

私が出かける気配に気づいて、息子がまとわりついてくる。

「どこいくの?」
「潮さんと、お歌、聴きに行くんだよ」
「ととくんも、いきたい!」
「うーん、ととくんがもうちょっと大きくなって、じっと静か静かにできるお兄ちゃんになったら、いっしょに行こうね」

いや、ライブって、そんなに静かにじっと聴き入るものじゃないか。
ここ数年、音楽といえば、クラシックとかオペラだったので、ライブのノリがわからん。

そして、ダンナにも「気をつけてね」と見送られる。
うん、心配ないよ。あなたが行くようなメタルバンドのライブとは、たぶん、客層がちがうから。

そんなわけで、潮さんと心斎橋に行き、オーガニック&ベジタリアンカフェ「Atl」で、まずはお茶。
ここのベーグル、これまで食べたことないくらいハードで、みっちりして、美味しかった。

そして、ライブはスタンディングだったけれども、人の上を人が流れて行く(モッシュ&ダイブというらしい)とかもなく、ほどよい感じで、音楽に身をゆだねることができた。
新譜の『ビーチボーイのジャームッシュ』に続いて、『甘い恋人』で盛り上がる。目の前で汗だくになって歌っているのが、キャリアを積み、四十五歳になったポップ・アーティストというので、余計に、感じ入るものがあった。
ゲストで参加していた、北海道出身のひとたちがやっているというKONCOSの音楽も好きな感じだったし、ひととき、青春や恋愛の切なさなど思い出して、楽しい夜を過ごす。

ちなみに、潮さんはふだんはロック系のライブに行くことが多く、息子さんが大学生のときにその友人たちとGREEN DAYというパンクバンドのライブに行って、人波に揉まれ大変な目にあったそうな……。
その話を聞いて、大学生になった息子とライブに行くなんて、素敵だなあと思った。

息子が大きくなって、夜遊びできるような年頃になったとき、果たして、彼は私といっしょにライブに行きたいと思うのだろうか。
ライブでなくても、共通の趣味を楽しめるような、そんな親子関係を築きたいものである。

あっくんの謎

保育園には毎日、連絡ノートを書いて、持って行く。
保護者と保育士の交換日記のようなもので、子供の言動や体調など、伝えておきたいことを記入するのだ。

・家庭での様子、連絡事項など
「最近、あっくんというお友達のことをよく話しています」

・保育園での様子、連絡事項など
「あっくん……。だれでしょう? もも組には、あっくんと呼ばれているお友達はいません。(ぶどう組にはあきひろくんがいますが、接点はないと思います)」

…………こわいよ!
このエピソードをこわいと感じるのは、私の想像力が豊かすぎるから? ホラー小説の読み過ぎ?

チェブラーシカとロシア・アニメーションの作家たち

滋賀県立近代美術館まで、親子三人で、チェブラーシカの展示を観に行ってきた。

実は息子、二歳にして、美術館を訪れるのは、六度目くらいなのである。
まだ保育園に行っていなかった頃、私が仕事をするあいだ、ダンナに息子を連れて出てもらうことが多かった。
ダンナは、おなかに抱っこひもに入った息子を連れていようとも、あまり気にせずに、面白そうな展示があると、美術館に入っていたらしい。
美術館なんてよくそんなところに赤ちゃん連れで行くなあと思っていたのだが、逆に、まだ歩くことも話すこともできない赤ちゃんだったからこそ、寝てしまえば静かなものなので、連れて行くことができたのだとも言える。

そういうわけで、歩くことも話すこともできるようになった息子は、美術館で大はしゃぎだった。

「ちぇぶちゃん! いた! かわいい!」
「あっちも! ちぇぶちゃん、いる!」
「ここ! こっち、もっと、みるの!」

こんな調子で、大きな声を出したり、走りまわったりと、もう、冷や汗ものであった……。

ただ、展示の内容的に、大人向けというわけではなく、子連れで来ているひともちらほらいたし、常設展の現代アートにも子供向けの解説がついていたりと、ちいさなお子さんもOKな雰囲気があったのが、救いだった。

展示の第一部は「原作となった児童書の挿絵原画から多彩なチェブラーシカの姿を誕生から追う」ということで、ロシアで出版された本がいくつか展示されていて、いろんな挿絵バージョンのチェブラーシカを見ることができたのがうれしかった。
真っ黒でタヌキみたいなチェブラーシカとか。
どう見ても太りすぎの二段腹をしたチェブラーシカとか。
……え? これ、ヨーダ? みたいなチェブラーシカとか。
おなじ物語でも、挿絵によって、ずいぶんと印象がちがうものだ。

原作者であるエドゥアルド・ウスペンスキー氏のインタビュー映像が流れていたのも、児童文学を書く身として、いい刺激になった。
そして、展示の第四部は「ロシア・アニメーションの作家たち」ということで、チェブラーシカだけでなく、さまざまなロシアのアニメーションの絵コンテが展示され、映像も流れていて、久々に自分でもコマ撮りアニメを作りたくなった。
むかーし、大学生の頃は、ひまがあったので、ビデオカメラで、一コマ撮っては、人形を動かし、一コマ撮っては、また人形を動かしと、コマ撮りアニメーションを作って、遊んでいたのでした。

ミュージアムショップで販売しているグッズは、思ったより少なかった。
買ったのは、まず、図録。
衝撃的に可愛くないヨーダみたいなチェブラーシカの描かれたクリアファイル。
電話ボックスでチェブとゲーナがお茶してるポストカード。
どことなく出っ歯なチェブラーシカのロシア製陶器の置物。

あと、二階のくつろぎ美術館というところでパンを販売しているらしく、私がお土産を選んでいるあいだに、ダンナと息子は買いに行ったのだが、売り切れていたそうで……。
しかし、息子が「ぱん、たべたい! ぱん!」と言ったところ、店のひとが「これ、予約分ですが、来られないみたいなので……」とひとつだけ、売ってくださったらしい。子供がいると、親切が本当に身にしみます……。
その米粉のシフォンケーキが、ふわふわで、めちゃおいしかったので、ああ、展示を見るまえに、パンをいろいろ買い込んででおけばよかった、と思う。
これから滋賀県立近代美術館に行かれる方は、早めにパンをゲットしておくことをおすすめします。

滋賀県立近代美術館はJR瀬田駅からバスで二百円の「文化ゾーン」に建っているのだが、同じ敷地内に茶室や素敵な図書館もあり、緑豊かな公園は広々としていて、ちょうど雨上がりできのこが生えていたり、竹林があったりで、とても雰囲気がよかった。

大阪からだとちょっとした小旅行という遠さだったが、さすが美術館の展示だけあって充実の内容で、ほくほくしながら帰路についた。

チェブラーシカ展

滋賀県立近代美術館で「チェブラーシカとロシア・アニメーションの作家たち」という企画展を開催しているらしく、めちゃくちゃ心惹かれている。

でも、二歳児連れで、大阪から滋賀までは遠い……。
そして、「2014年まで、全国の美術館を巡回します」という一文を見つけ、もしかしたら、近くの美術館に展示がまわってくる可能性もあるかと思うと、ますます迷う……。

追記。
主催者に問い合わせてみたところ、いまのところ大阪での開催は予定されていないとのこと。
近畿圏では滋賀ほどの充実度で展示するところはなさそうなので、行く方向で考えています。

妊婦さんにおすすめミステリ

妊娠中の友達が、里帰り出産をするということで、宮崎に旅立つまえに会いに行き、欧米式に「出産前お祝い」を渡してきた。

自分が経験して痛感したのだが、産後は新生児の世話に追われて祝っているひまもないので、比較的余裕のある妊娠後期におめでとうパーティーをして、出産祝いも妊婦自身がリクエストするという、いわゆる「ベイビーシャワー」なるやり方は、非常に合理的だと思う。

そんなわけで、友達からのリクエストで「おすすめ育児書」と「妊娠中に気軽に読めるおすすめミステリ」を持って行くことにした。

育児書は、いろいろ迷ったのだが、四十年以上にわたって読み続けられていた古典的名著
『育児の百科』(岩波書店)松田道雄
に決めた。
私が愛読しているのは、ハードカバーのほうだけれども、絶版だったので、三冊に文庫化されたものを購入。

松田道雄氏の著作は
『私は赤ちゃん』 (岩波新書)
『私は二歳』 (岩波新書)
『おやじ対こども』(岩波新書)
の三冊も、読み物として面白く、大好きである。
残念ながら、こちらも絶版のようだが。

そして、ミステリだが、まず、妊婦さんが出てくるものとして思いついたのが、この作品である。

『赤ちゃんをさがせ』(東京創元社)青井夏海

自宅出産専門の助産師さんが、お産に行く先々で事件に巻きこまれるというミステリで、ほのぼのして、とても面白い。

けれども、ひとつ、ネックになったのは、最後に出産シーンがあるというところで……。
友達は初産だし、はじめての出産という大仕事に、それなりにプレッシャーや恐怖心を持っているだろうから、出産シーンが描かれているものは、どうしても、自分自身のことを想像して、気分転換にはならないかもしれないなあ、と考え、気をまわしすぎかとも思いつつ、このシリーズは今回は除外した。

でも、私は、妊娠中に読んで、すこぶる楽しめた作品である。
続編『赤ちゃんがいっぱい』も、早期教育とか、天才児のなれの果てとか、興味深い内容で、共感できた。

それから、妊婦ミステリといえばこの作品。

『バルーン・タウンの殺人』
(早川書房)松尾由美

人工子宮が一般化した世界で、それでもあえて母体での出産を望む女性たちが暮らすバルーンタウンという場所があり、そこで起きた事件(密室の謎あり、暗号あり)に妊婦探偵が挑むSFっぽいミステリで、この作品も大好きなのだが、殺人事件が起きるからなあ……と思って、念のため、やめておくことにした。

そういえば、クロスワードパズルには「病気」に関係する単語は使わないというのが、暗黙の了解になっているという話を聞いたことがある。入院中に楽しむひとが多いから……。

結局、妊娠中でも気楽に読めるミステリとして、選んだのがこちら。

『タルト・タタンの夢』(東京創元社)近藤史恵

下町の小さなフレンチ・レストランを舞台に、名探偵でもある名シェフが、絶品料理を提供しながら、お客さんの謎を解決するというミステリ。

件の友達は、料理関係の仕事をしていて、おいしいものが出てくる「グルメ+ミステリ」というのは、絶対によろこんでもらえる、と思ったのだ。

そしたら、なんと、『タルト・タタンの夢』は漫画化されていて、その『ビストロ・パ・マルの事件簿』という漫画の料理監修をしているのが、その友達の勤め先である辻調のグループ校だということが判明!

そんな縁もあり、趣味にあいそうな本を贈ることができて、よかったー。

というような感じで、プレゼントするために本を選ぶというのは、楽しいものです。

ちなみに、余談ですが、『赤ちゃんをさがせ』を楽しく読んだあとに、この本を担当したのが、拙作『ハルさん』(東京創元社)でお世話になった編集者K氏だと知ったときにも、縁だなあ、と思った。

そして、この編集者K氏は、私の大好きな『春期限定いちごタルト事件』(創元推理文庫)米澤穂信の担当でもあり、いつも新刊を送ってくださっていたのだが、あるとき、書店で『秋期限定栗きんとん事件』なる本が並んでいるのを発見した。

(あれ? 小市民シリーズの新作、出てるやん!)

どうして、今回は送っていただけなかったのだろう? 送っていただいたのに引っ越しのごたごたで届かなかったのか? それとも、担当が変わったのだろうか……? などと疑問に思って、訊いてみたところ、編集者K氏からは、こんなお答えが。

「ご妊娠中ということでしたので、今回は、内容が内容だけに、お送りするのを控えました」

そこまで配慮していただくとは、どれほど陰惨で血なまぐさい事件が起きたのかと思って、ドキドキしながら読んだ。
しかし、全然、むごたらしいような描写もないし……むしろ、高校生の微笑ましい恋愛もようが描かれ……気恥ずかしいような切ないような……いつも通りのテイストで……そこで、はっと、気づく。

ああ、妊婦に「火事」はタブーか。